
…結局、ツキノは帰ってくれなかった。
だから私とツキノは最後まで手伝った。
動物の牛相手に、伝えようがないじゃない。
もう、家に帰らなきゃって。伝えようがないじゃない…。
馬たちを小屋から離れた所へ運び出す。
ツキノが仲の良かった馬から離れようとしないので、一番最後に運んだ。
その間、私がしたこと。力仕事では大した力になれない。だから、それ以外のことで手伝った。
フジたちはまともにごはんを食べていなかったので、食事を持って来たり。
穴を掘る道具が足りなくて、急いで取りに帰ったり。
最後の馬を運び出そうとしたとき、ツキノもやっと動いた。荷車を押すのを手伝ってくれたように見えたけど、かえって邪魔になったんじゃないかな。私が牛のツキノをうまく扱えていれば…。
”牛の主である以上、手綱の使い方は覚えておかねば”
私を猪から助けてくれた、あのよくワカラン男が言っていたこと。今なら身に染みてわかる。
”家畜を上手に育ててあげられるのは、愛情を持った優しい人間だけです(≧ω≦。)!”
フジが言っていたこと。もう少し真面目に聞いておくんだった。
そうだよね。私、ツキノをそんな風に見てなかったよね。ただ、カキツお祖母様のことに使えないかどうかで見てたよね。
私って愛情ないのかな。そんな人間に使われたくないよね。
最後の馬に土をかぶせて皆家に帰り始めた。もうみんなクタクタ、私もボロッボロ。とにかく家に帰らなきゃ。
ツキノを引っ張る。
足取りがいつにも増して遅い。私もすごく疲れているし、ツキノだって疲れているはず。
でもきっとここから離れたくないんだろうな…。
もうすっかり夜だ。真っ暗。
どうすれば良かったんだろうね、私…。
はっと、空を見る。星だ。
ひと際輝く星、微かに光る星。そして並んで光る星。
そうだ、思い出した。
星を見ながら、お祖母様に聞いたことがあったんだ。
カキツお祖母様とまだ話せていた頃…。
~~~~~~~~~~
アヤメ「お祖母さま!イホツミのやつが変なことを言うの!」
カキツ「どうしたんだい?」
アヤメ
「”口うるさい母ちゃんがいなくていいな”って言っていたの。私には元々お母さまはいないよって言うと、”昔はいたんだろう、馬鹿だなぁ”なんて言うの。」
「私にもお母さまがいたの?私のお母さまはどこに行ったんだろう…。」
カキツ「…。どうやら、話す時が来たようだね。」
アヤメ(ゴクリ)
カキツ
「アヤメちゃん、あんたにも”お母さん”はいたんだよ。でも遠い所に行ってしまった。」
「空を見てごらん。色んな星が光っているだろう。アヤメちゃんのお母さんは、あの中にいるんだよ。」
アヤメ
「ひょっとして、お月様にいるの?お父様が言っていたよ!あそこでウサギが私の好きな団子をついてるんだって!お母さまもあそこにいるのかなぁ。」
カキツ「お月様には、お母さんはおろか、ウサギ一匹いやしないよ。あそこは土と石だけさ。」
アヤメ「そうなんだ…。」
カキツ
「でも、見てごらん。三つ仲良く並んでいる星があるだろう。その隣に、朱く輝く星・蒼く瞬く星・ひときわ大きい星、三つの星があるだろう。」
「それでできた三角の中を、よ~く目を凝らして見てごらん。うっすらと星々が見えて来るだろう?」
「その星々の一つには、私達と同じように人が住んでいるんだ。アヤメちゃんのお母さんはそこから来たんだよ。」
アヤメ
「私、私のお母さまに会ってみたい!どうやったら会えるの?馬に乗れればすぐ行けるかなぁ。」
カキツ
「あの星はね。ものすごく遠いんだ。都より蝦夷よりもね。そうだねぇ、アヤメちゃんの好きな甘~いお団子をずっと我慢して、馬をずっと走らせても…50億年、いやそれ以上かかる。」
アヤメ「お団子我慢するなんて…無理…。」
カキツ「そうだろう?私も会いたいんだけどねぇ、会えてないの。好きな鹿の燻製を我慢しなくちゃならないからねぇ。」
アヤメ
「なんでお母さんは私を置いて行っちゃったんだろう。私のこと嫌いになったのかな…。」
カキツ
「そんなことないよ。アヤメちゃんを生んだ後、お母さんはその星に帰らなきゃならなかったんだ。」
「子供を産むのは大変なんだよ?ちょっとでも穢れがあれば、病気になっちゃうからね。お母さんも、赤ちゃんも…。だから、穢れを落とせるいい泉を探して、モロカタへやって来たんだ。」
「アヤメちゃんのお母さんは、嬉しそうな顔していたよ。あんたを生んで、幸せだったんだよ。嫌いになるわけないじゃない。」
~~~~~~~~~~~~~~~
…。
……。
………。
アヤメ
「物心ついた頃からお母様はいなかった。でもお祖母様が母親代わりに接してくれて、寂しくなかった。でも今はもう…。
あなたはどう思う?私の気持ち、牛のアナタに言っても伝わらないよね…。」
「でもきれい。今日の夜空は、本当にきれい…。」
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たちばな天文台(外部リンク)
都城市高崎町にある天文台。目の前に霧島連山がそびえ、”日本一星空の美しい町”にも選ばれたところです。望遠鏡を使った星の解説やいろんなイベントがあります。
余談ですが、オリオン座の向かって左がいっかくじゅう座、右がおうし座となっています。
