
猪から助けてくれた人。運命の王子様かと思ったけど、世の中そう甘くなかった。
???
「大陸の国の話だ。家臣が主に、”馬”の貢物を献上した。が、外観は馬では非ず。これ”鹿”なり。家臣たちがいざこざを始めたというのに、主は諫めることをせず、結果争いが起き国は滅び始めた。それが”馬と鹿”の話だ。」
「牛の主である以上、手綱の使い方は覚えておかねば。今度からは気を付けなさい。仕留めた猪の一頭は君にあげよう。日が落ちる前に帰るといい。」
アヤメ
「…はぁ。ありがとうございます…。」
この人は私に何を言おうとしていたのだろう。なんとなく忠告された気はするけど。
難しいヤマト語(日本語)で言われてもピンとこない。
難しい言葉で言うのやめて。
都の人はみんなこうなのかな。
初めての王子様?との出会い。得られたのは猪一匹…。
…。
……。
………。
???
(主人がしもべの牛の手綱を離し、さらに丸腰で獣に襲われることがいかに危険か。
彼女を傷つけないよう遠回しに、洒落を足して注意してみたが、果たして伝わっただろうか…。)
…。
……。
………。
仕留めた猪を見つめていると、オオヒナが遠くから走って来た。
オオヒナ
「姉さん!お祖母様見つかったよ!イホツミ兄さんが連れ帰ったって。」
「姉さんの牛がものすごい速さで町の方へ逃げていったよ。おかげで姉さんの居場所がわかったけど。」
あの牛…ツキノって名前まで付けてあげたのに。いつか晩飯のおかずにしてやる!
私とオオヒナで猪を持ち帰ると、お父様、お祖母様、イホツミを囲んで、町の人皆で宴を始めていた。そう、お父様は数日後にはまた都へ帰る。そのための宴会だ。
ウシモロ
「いやぁ見つかって良かった、お母様!
イホツミ、お祖母様はどこに行っていたのだ?」
イホツミ
「え?え~と…。あ、そうそう!親父がくれた馬で探しに行っててよかったぜ!ばあちゃん抱えて帰ってたら、日が暮れてた。」
ウシモロ
「お前も馬を乗りこなすようになったな。馬の扱いも馴れて…。
お祖母様、食欲だけは前と変わりませんな。歯だけは達者のようだ!」
カキツ
「食べた?私はまだ何も食べてないよ。」
お祖母様は大丈夫そう。むしろ調子がいい方だ。イホツミの様子がちょっと変なのが気になるけど…。
オオヒナ
(姉さん、ちょっといい?
見てもらいたいものがあるんだ。)
アヤメ
(?)
オオヒナと倉庫へ行く。そこではお父様が都から持ち帰ったものが保管されている。
これは…。
ウシモロ
「アヤメ!オオヒナも。猪を仕留めてくるとは。父のために獲ってきてくれたのか?干し肉にでもすれば、道中の保存食になるな。助かる!
さあ、お前たちも食べなさい。このアズキ煮はどうだ?」
オオヒナ
「…アズキ煮苦手なんだけど…。」
私は倉庫で見つけたものをお父様に見せた。
アヤメ
「お父様!これ…。」
これは機織機の部品。私は前、お父様に都の機織機をせがんだ。でも毎回忘れて帰ってくる。
でも、今回はちゃんと覚えてくれていたんだ。本体は壊れていたけど…。
ウシモロ
「あ~。道中で嵐にあったとき壊れたのだ。あそこまで壊れていては流石に…と思ってな。」
「正直に言えば、機織機はモロカタに帰る直前まで忘れていた。だが、牛を見つけお前の顔が浮かんだとき、思い出したのだ。
あの時…。」
…。
……。
………。
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(数年前)
アヤメ
「…を持って帰って!今度は絶対に忘れないで!お願い!」
ウシモロ
「あ~、はいはい。アレだな。はい、今度は忘れないからな。」
アヤメ
「ちゃんと聞いてる!?もう何度目よ。
いい!?ハニワでもなく、ニワトリでもないからね!?今度は絶対忘れないでよ!」
ウシモロ
「はいは~い。えーその”アレ”で何をしたいのだ?」
アヤメ
「えへへへ。え~とねぇ…。」
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ウシモロ
「お前は、こちらも嬉しくなるような笑顔で、作りたいものがあると言っていた。
満面の笑みで。
それだけは覚えていた。何を作るかは教えてくれなかったが。」
「そうだ。アヤメは織物で”何か”を作ろうとしていた。それでようやく、お前が機織機を欲しがっていたことを、思い出したのだ。」
そうか。
人は興味のないことをすぐ忘れる。
でも、どういう感情になったかは、覚えている。
お父様は畜産にかけては情熱のあるウシおじさんだけど、機織や裁縫についてはサッパリだ。
だからか、機織機はすっかり忘れていたけど、私が楽しそうにしていたことは覚えていたんだ。
カキツお祖母様と、他愛のないおしゃべりをして、楽しかったあの頃…。
さっき私を助けた人が言葉で何か言っていたけど、イマイチわからなかった。
そうか、言葉じゃない。
感情なら伝わる…。
ウシモロ
「あの機織機は壊れて塩水もかぶってはいるが、一応持って帰ったんだ。
何を作るのか、教えてくれるか?」
アヤメ
「修理できたら、言う…。」
私はいつか、都へ行きたい。お祖母様との”約束”を果たしてから。
でも、普通に考えたら無理だ。ツキノに触れたからといって、お祖母様の病が治る見込みはない。あの約束を果たすなんて、どう考えても無理。
近いうち、お父様がモロカタへ帰ってくる。お父様とお祖母様、弟、そして町の人たち…。皆でここで暮す。ここで一緒に暮すことが、一番の幸せなんだ。私が我慢すればいいだけ…。
お父様が私との約束を覚えてくれていたこと、嬉しかったよ。
アヤメ
「 え~とねぇ 、お父様。さっき変な人が助けてくれて、それから…。」
…。
……。
………。
数日して、お父様は都へ旅立った。
この時は思いもよらなかった。
数か月後、モロカタが一変するなんて…。
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<補足>
都城歴史資料館
都城市にある歴史博物館のうちの一つ。見た目がお城で、都城市の歴史を学ぶことができます。「都城市は昔巨大湖だった」とか「昔の人々がどんな道具を使って生活をしていたか」とか「何を食べていたか」とか。周辺は自然が豊かで、マインドフルネスにぴったり。ちょっと歩いた先に公園のある遊具があるので、子連れで遊びに来る家族も多いです。
