
ウシモロ「かぁ!あぁ!さぁ!まぁ!
おぉ!ひぃ!さぁ!しぃ!ぶぅ!りぃ!でぇ!すぅ!ねぇ!」
カキツ「あ~?」
「アヤメちゃん。この人だ~れ?」
この人はカキツ。私のお祖母様。小さいころ、独りぼっちだった私に、機織(はたおり)や裁縫を教えてくれた。親がそばにいなくて、寂しさを感じていた私。でもお祖母様と一緒にいるときは、それを紛らわすことができたんだ。でも…。
アヤメ「むぅ!すぅ!こぉ!よぉ!むぅ!すぅ!こぉ!」
カキツ「そうよぉ。知らない男には気をつけなきゃダメよ。」
ウシモロ「すっかり老けてしまったな、お祖母様は…。」
物忘れが多くなってきて、最近は話すこともままならない。楽しかったおしゃべりもできないんだ…。
ウシモロ 「アヤメよ。実は都の仕事を引退して、モロカタに戻ってこようと思う。」
アヤメ「えぇ!?」
ウシモロ「私も若くない。仕事も段々ときつく感じるようになってな。それに、都との行き来は骨が折れるんだ。お祖母様くらいの年になってみろ。間違いなく死ぬ。今回の嵐の件だって…。」
アヤメ(そんなぁ。お父様のツテで都へ行って、玉の輿のつもりだったのに。)
ウシモロ「それに、お祖母様も大分お年を召している。私のことはすっかり忘れているが、母親だ。最後くらいは面倒を見なくてはな。」
カキツ「アヤメちゃん、おいで!おいで!可愛い子がいるわよ!あなたは来なくていい!
アヤメちゃん、いい?触った後はちゃんと手を洗うのよ。」
アヤメ「お祖母様、今日はよく喋るね。息子がいるから?それとも、”ずんぐり”が珍しいの?」
カキツ「あ~?」
ウシモロ「…。アヤメよ。こいつは”牛”というんだ。なぜこの牛を都から連れてきたか分かるか?」
「昔、先祖は貧しい生活をしていた。皆がひもじい思いをしないよう、畜産に力を入れた。私も都で畜産の技術を学びモロカタへ持ち帰った。おかげで、皆が貧しい思いをしなくなった。」
「ある時、都で馴染みの馬飼いの所へ行ったときのことだ。馬に紛れて毛色の違う一頭がいた。それがこの子牛だった。」
「この子牛は母牛を早くに亡くしていた。母牛は産後の肥立ちが悪く弱っていったそうだ。馬飼いも、自分の力不足を悔しがっていた。」
「こいつに出会ったとき、ふと思い出した。アヤメよ、お前の顔だ。お前も母を早くに亡くし、寂しい思いをして来ただろう。アヤメとこの子牛が重なってな。仲の良かった馬と一緒に連れてきたのだ。」
「モロカタへ連れ帰り、育てる。これからは多角経営だ。培われた技術は将来、モロカタ発展の大きな力になる。お祖母様の面倒でも見ながら…。この子牛に出会って、私の最後の仕事は何なのか悟ったのだ。」
「アヤメがこの子牛を選んだ時、運命的なものを感じたぞ。私がモロカタへ帰るまで、お前のものにしておいてくれ。今段取りをつけているところだ。世話は男衆のフジ達に任せればいい。」
カキツ「アヤメちゃん。この子、どう見ても鹿じゃないわ。
あ~、なんだか鹿の燻製食べたくなって来ちゃった。」
アヤメ「今日は本当によく喋るね、お祖母様。良かったね…。」
どうすればいいの?
私は都へ行って、外の世界を見たい。でもお父様はモロカタへ帰って牛の世話をすると言う。
そうなったら都へ行くツテがなくなる。しかしお祖母様は置いてはいけない。なぜなら、”約束”があるんだ。お祖母様との大切な”約束”が…。お父様に言っても、多分伝わらない。お父様なりに私のことを考えてくれていることは分かる。でも私にとってこの約束がどんなに大事か、お父様には理解できないよ。今までがそうだったし…。
今は、この子牛の存在がうらめしく思う。この気持ち、どうすれば晴れるの…。
ウシモロ「ちなみに、牛の肉は食べたら美味しいらしい。」
…。
……。
………。
…………。
カキツ「食べたら美味しいのかしらねぇ。」
3週目に続く>>>
<補足>
都城市には、家族ずれで遊べる大きなが公園がいくつかあります。その内の一つが”早水公園”。その中に、”万葉植物園”という植物園があります。ここは最古の和歌集であり元号”令和”の出展「万葉集」に登場する植物と、その和歌のプレートがセットになって植えられています。各週のタイトルは、万葉集の和歌の一部をもじったものにしました。ちなみに、万葉集と都城市、調べるとちょっとした接点があるのですが…、それはまた今度。
